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「檀」沢木耕太郎 [読書]

ようこそです。 



最後の無頼派と言われた作家、檀一雄(1912-1976)。

代表作は愛人との生活を赤裸々につづった「火宅の人」。

本書は妻ヨソ子夫人のインタビューに基づき

沢木耕太郎が著したドキュメンタリー的作品です。



IMG_4826.jpg
表紙の絵画は画家の大藪雅孝(1937-2016)作。
真紅の鶏頭の盛り上がった質感と
目の粗いキャンバス地のせめぎ合いの傍ら
淡々と飛んでいるモンシロチョウ・・・
なぜか強く惹かれました。
 
IMG_4828.jpg

 
男の料理の先駆けとして
「檀流クッキング」を著わした檀一雄の家族スナップ写真。
母の家出をきっかけに少年時代から料理をするようになったとか。
”ただ十歳のころから、ヤミクモに、
自分の食べるものは、自分でつくって、
食べてきたという、男である”

  
檀一雄とヨソ子夫人は再婚同士。
作家は前妻を病で亡くし
「リツ子・その愛」「リツ子・その死」などの
作品を書いています。
長男の太郎は前妻のご子息です。
 
第一章はヨソ子夫人が檀一雄と出会うまでと結婚した頃の話
それから舞台女優入江杏子と愛人関係になり同棲、
怒ったヨソ子夫人が家出するのが第二章。
第三、四章は愛人関係を認めながらも悶々と暮らす日々
第五章でついに「火宅の人」執筆開始。
この頃次男の死と作家の体調悪化の兆しが表れる。
第六章、檀一雄は放浪癖からポルトガルのサンタ・クルスへ
途中ヨソ子夫人も合流
第七章 帰国後は夫婦穏やかな日々が続き
住まいは福岡県能古島に移住
そして夫に肺がんが見つかる
第八章 九大病院に入院
未完「火宅の人」を口述筆記にて脱稿
63歳で死去
終章 ヨソ子夫人への手紙と夫人の心情が語られる。
 
解説の長部日出雄の指摘が興味深い。
 「じつに不思議な作品である。・・・
この『檀』の作者は、いったいだれなのだろう。」
自叙伝ならば語り手の「私」のヨソ子夫人か
それとも著者の沢木耕太郎であろうか
(そうならば著者はノンフィクションライターか小説家なのか)
この作品は週に一度一年間ほどヨソ子夫人にインタビューした沢木が
夫人の視点から檀一雄の姿を描き出している。
いわば1人称からあるいは4人称までの視点が含まれているのではないか。
余分な感情や自意識を排除し事柄を明晰かつ簡潔に語る手法は
アメリカのハードボイルドのやり方である。
 
 
檀一雄とヨソ子夫人の娘
女優として知られる檀ふみの
愛らしい写真
 
danfumi_01.jpeg
 
ヨソ子夫人と似ているようですね
家族は皆さん長身だそう 
 
danfumi_03.jpeg
 
 カバーの絵は真紅の鶏頭が激しい感情に生きた檀一雄の姿
モンシロチョウは控えめなヨソ子夫人に見立てて
装幀されたのでしょうか。
(カバー装幀:緒方修一)
 
最後に沢木耕太郎がヨソ子夫人に
「火宅の人」に描かれた夫人ヨリ子をどう思うかと
質問しているくだりがあります。
「不幸な人だな、と思うでしょう」
では、実際の檀ヨソ子はどんな人でしたか。
 
「貧しい女でした」
でも、と私は続けた。
「貧しかったけれど、不幸ではありませんでした」
そして終わりに
 
あなたにとって私とは何だったのか。
私にとってあなたはすべてであったけれど。
だが、それも、答えは必要としない。
 

 
また次回[ー(長音記号1)]



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