カズオ・イシグロ 「日の名残り」 [読書]
ようこそです。
ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ
「日の名残り」THE REMAINS OF THE DAY (1989)
1956年現在アメリカ人に仕えていた。
休暇の一人旅に出た彼は様々な過去の出来事を回想する。
1920~30年代にダーリントン卿のもとで働いた輝かしい時代。
父の死、女中頭との関係、館で催された国際会議。
旅の終わりにスティーブンスは
ダーリントン卿が実はナチスに操られ
女中頭ミス・ケントンが自分に思いを寄せていたことを知り
ショックを受け涙に暮れるのだった。
目の前で事件が展開されながら
無意識に目をそらし取り合わない主人公。
違和感を抱えながらも時を経て真実を知り、
それに気づかなかった自分にがく然とする。
どこかで読んだようなテーマだと思えば以下の2作品でした。
一つはアガサ・クリスティーの
「春にして君を離れ」Absent in the Spring(1944)。
夫や子供に恵まれ何不自由ない生活を送ってきた女性が
旅の道すがら人生に疑問をもち、実は周囲に無関心だったこと、
そしてやはり当時ナチスに対する国際情勢にも
無理解なことが露呈する。
※ちなみにすてきな邦訳タイトルとカバーですね
もう一つは浅田次郎
「椿山課長の七日間」(2002)。
過労死したデパートの椿山課長が七日間の約束で現世に戻ると
ぼけていなかった父親、妻の不倫、そしてやはり元同僚の思慕などの
真実を知るのだった。
英国と日本という本音と建て前が歴然とある国で
起こりがちなシチュエーションかもしれません。
また人間の普遍的な愚かさのテーマでもあるでしょう。
空気が読めない、「気づき」の欠落ゆえに
とりかえしのつかない結末。
一方で上記の主人公たちは皆、発達障害の一種ASD
(アスペルガー症候群とも呼ばれた社会的コミュニケーションの障害)
という可能性も考えられます。
もしそうなら小説で倫理的に断罪されることは
根本的に見直す必要があるのでは。
文学史が書き換えられるかもしれませんね^^;
また次回