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「無冠の父」 阿久悠 [読書]

ようこそです。 

「無冠の父」 阿久悠 

昭和歌謡曲の作詞家で知られる著者の自伝的小説。 

 1993年に執筆されたが編集者の改稿を拒み未発表作品だった。

2011年遺族の了解を得て刊行される。

淡路島の巡査だった実父をモデルに戦争の時代を背景に

丹念に描いたものです。

 
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※最新版は岩波現代文庫あり

 

第一章 訃報 

冒頭にマスコミの取材に対し
親について語ることへの考えが書かれる。 
ひとことで言えば「恥ずかしいじゃないか」
インタビューを受ける多くの成功者が個性豊かな親たちを
ことさらに得意げに語る様子に違和感を感じるのだ。
ヨーロッパ旅行中の語り手、
作詞家の阿井丈(本名:深沢健太)と妻は
突然の父の訃報を受け帰国の途につく。
唐突に父の言葉を思い出す。
「お前の歌は品がいいね」
 
第二章 巡査
  
「私の父の深沢武吉(ぶきち)は生涯巡査であった。」
巡査の子と他の子供たちの間には見えない壁があった。
巡査というものは国家の側の人間で土地に根付かない。
玄関前で上半身裸で竹刀を振る様子は
町の人々には立派な威嚇と見えた。
「弱くて後退するのでなく強くて譲る」
ような男になれとも言っていた。
子供の方は、踏み外してはならないという本能と、
何が何でも踏み外したいという精神の葛藤が渦巻いていた。
  
第三章 俳句
  
太平洋戦争に突入後昭和一八年、
国民学校に入学した健太は優秀な級長だった。
ヒステリックな女教師に鬼畜米英の玉投げの的になれといわれ
切腹すると泣いた。駆けつけた父親は
「巡査の子に恥は禁物や・・・こんなチビでも死にますぜ。」
と低い声で恫喝した。
昭和二十年八月十五日、終戦の日は
確たる証拠もないのに青空だった鮮烈な記憶が残る。
父は実に淡々とわしは腹を切るからと言いそうな気がした。
「健太、あんた、ぼくもなんてことを言うんやないよ」と母。
(大変な状況ですがここはちょっと笑えますw)
しかし父は少し酒を飲み縁側に座ると
しみじみと俳句を詠んだ。
「松虫の 腹切れと鳴く声にくし」
「この子らの 案内(あない)頼むぞ 夏蛍」


第四章 肖像
  
家族ともに赴任先では意識して真の友人を持たないようにしていた。
それでも例外に世俗的な同僚がいて、
戦死した長男の遺影を描いてもらう。
戦後を迎え、姉が一番風呂に入った事件に時代の変化を感じた。
(それまでは絶対的に父が一番に入っていた)
  
第五章 格言
  
帰国した健太と妻は親族と父の告別式を行い
様々な回想がよぎる。
大学受験を前にした面接の帰り、
珍しく映画館で「二十四の瞳」を見た帰り道
「わしの中には恥ずかしさがありこれを守り抜こうと決心した。
他人に見せたらあかん五箇条、一つ、金をかぞえとるあさましい姿
一つ、ものを食べる姿や顔、一つ、便所に入っている姿、
一つ、嫉妬する顔、一つ、男と女が交合する顔
知っておいてくれ、お前に守れということではないがな」
告別式での伯父の言葉
「弟ながら面倒くさい男でな・・・自分を低く見る。
しかし他人から低く見られるのは耐えられない。
だからせめてきれいに生きたいとする。」
  
長嶋有氏の解説に、
「昭和」が書かれているのだろうと読んでみると
「品のいい」繊細な文章だった。
ピンクレディーや沢田研二などけれんに満ちた
歌謡曲のイメージとほど遠い、
とありますがまったく同感でした。
平たく言うと「渋い」そしてかっこよすぎる。
今の時代遠くなってしまった昔の男の生き様が
あくまで地味に丁寧に、文字通り「品」のある書きぶりで
すごく好感が持てました。
  
  
※個人的にはグレートマジンガーのスピンオフで^^
鉄也の実父を殉職した警官の設定で描こうという目論見があり
参考に佐々木譲「警官の血」も読みましたが
若干エンタメの要素が強い。
こちらは偶然みつけた掘り出し物でした。
おすすめです[ひらめき]
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また次回[ー(長音記号1)]  

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